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  皆既日食の撮影準備始める

 皆既日食は2009年7月22日に、インドから中国を経てトカラ列島にかけて見ることが出来る。日本の近くで皆既日食が見られるのはめったに無い。どうしようか迷っている内に残り3週間。やはり見に行こうと決意してツアーを探したが、もうどこも締め切り済み。日食ツアーはあきらめて個人旅行を手配した。


    フィルター探し

 見るだけではなく写真も撮りたい。月食は何度も撮影しているが、日食は撮ったことがない。太陽はもっとも明るい被写体で直接レンズを向けたら危険なことはだれでもわかる。家の中を探すとD400という1/400に減光するガラスフィルターは見つかったがこれでは減光能力が不足だ。しかも口径52mmで小さすぎる。いつも行く天体望遠鏡ショップへ出かけた。「日食の写真を撮りたいんだけれど、どうしたら良いの?」と聞くと、出してくれたのが『BAADER AstroSolar Safety Film』。日食グラスに使われているのもこれだという。A4シート一枚が2800円。安いと思った。望遠鏡や双眼鏡のフィルターに使った残りで日食グラスが何枚でも作れるサイズだ。

BAADER

 説明を読むと、可視光だけでなく、紫外、赤外域も含め減光するので安全に太陽観察ができるとのこと。あらゆる波長の光を均等に減光するのでニュートラルな色再現をする。D5(1/100000に減光)の能力がある。金属箔の両面に何かを均一にコーティングしたものらしい。メーカーはバーデル・プラネタリウムで、ドイツのマンメンドルフに所在する。

     撮影機材の選択

 太陽を画面いっぱいに写すには35mmフィルム換算で2000mm以上のレンズが必要だが、皆既日食では、太陽の周囲に広がるコロナやダイヤモンドリングの現象を撮影するほうが写真としても面白そうだ。そうだとすると500mmから800mmぐらいで充分なようだ。レンズ構成が複雑になりガラス面が増えるほど表面反射が増え、フレアーやゴーストの原因になるが、コーティング技術も進歩しているので昔のズームレンズのように強い光源が画面に入ると盛大にゴーストが出るということもないだろう。単純なレンズ構成というと屈折系天体望遠鏡だし、赤道儀で自動追尾すればさらに便利で学術的にも意味のあるデータが得られるのであろうが、今回は準備時間も無いし、通常の写真技術の範囲内で済ますことにする。被写体が太陽なので、重たいNikkor500mmF4はやめて、軽めのSigma150−500mmF5−6.3でフィルターを準備する。

     フィルター制作

 0.012mmの金属箔を対物レンズの前にどうつけるか? レンズの前にテープで貼り付けるというのは、まずい。部分日食段階ではフィルターを使うが、皆既日食になったらフィルターを外さないと暗すぎて撮影できない。皆既日食が終わると再びフィルターをつけなければならない。簡単に取り外しできる構造が必要なのだ。更に調べてわかったのだが、この金属箔引っ張ったりしてストレスをかけることが一番いけないのだ。バーデル・プラネタリウムのホームページを見ると、望遠鏡の筒先にはめるフィルターの作り方が丁寧に説明されたいた(http://www.baader-planetarium.com/sofifolie/sofi_start_e.htm)。

     まずシリンダーを作成

 望遠レンズの筒先にはめるシリンダーをまず作る。150−500mmF5-6.3は、筒先が一定の太さではなく、複雑に段差がある。この段差を埋めて一定の太さの筒先にしないとシリンダーが抜き差しできない。シリンダーは帯状の厚紙を丸めながら何重にも重ねて作る。シリンダー作成用にホームセンターで買って来た厚紙を使ってレンズ筒先の段差も埋めた。シリンダーはレンズの筒先に厚紙を巻きつけながら接着剤で固めながら作っていくのだが、しっかり巻きつけて作ると簡単に抜き差しできなくなってしまう。そこでレンズ筒先に予めPermacelと呼ぶ写真用の紙テープを2重に巻いて置いた。後でこの紙テープを剥がすとレンズとの間に適当な隙間ができてシリンダーの抜き差しがスムーズにできるというわけだ。これは独自のアイデア。
 接着剤は『ボンド ウルトラ多用途SU』を使った。4分でほぼ固まるが、この時間が都合が良い。帯状のテープを巻いていくとき、テープに接着剤を塗り広げ、テープを巻き重ね、ずれを修正し、手で押せえて一応固定できる時間が4分でぴったりなのだ。もしシリンダーの巻き方が不ぞろいで段差があるようなら、断面を紙やすりの上で擦って平らにする。

シリンダー

     金属箔を保持する円形の枠を厚紙で作る

 0.012mmの金属箔を平らに保持するための枠を厚紙を丸く切り抜いて作る。極めてきれいに厚紙を円形に切り抜ける道具をホームセンターで見つけた。NTの円切りカッターiC-1500Pという商品。直径18ミリから17センチまでの円が切り抜ける。
 今回は厚紙をドーナツ状に切り抜かねばならない。リング状の厚紙で金属箔をサンドイッチするのだが、用意した厚紙が薄めだったのでそれぞれ2枚重ねて丈夫な枠にした。合計4枚のリングを切り抜いた。リングの外径はシリンダーの外径にあわせ、リングの内径は対物レンズの実際の直径にあわせた。

円切りカッター 切り抜き リング

 いよいよ、リングに金属箔を挟む、一番慎重を要する作業に入る。金属箔にストレスを与えないような挟み方をしなければならない。ホームページの説明に従って作業する。テーブルの上にティッシュを広げテープで止める。ティッシュは出来る限り平らになるようにする。
 ティッシュの上にリングの直径に合わせたサイズに切断した金属箔を広げる。金属箔は下に薄いハトロン紙?を敷き、上に極薄の透明シートが載って保護されている。使用時はどちらも取り除かねばならない。私は、上の透明シートに気がつかず取り除かないでリングを接着する失敗をして、やり直した。リングには両面テープを貼っておく。両面テープは全面べた張りではなく、点状に飛び飛びに貼るだけでよい。その方が金属箔にストレスを与えないようだ。ホームページの作業説明では、ここが一番大事で慎重を要するとしている。金属箔の上に両面テープを貼ったリングを高さ10mmまで近づけ落とすと説明されているが、なかなか難しい。完全な鏡面にはならず、少しは波打った状態になってしまう。
 リングの外にはみ出した金属箔ははさみでカットし、裏面にもう一枚のリングをやはり両面テープで貼り付ける。

ティッシュ 箔の上にリングを置く

 金属箔を挟んだリングが完成したら、先に作っておいたシリンダーに貼り付ける。ホームページの説明では接着剤で貼り付けるとなっていたが、テープ止めにした。フィルター箔が損傷した時の交換補修の便を考えテープ止めを選んだ。テープは薬局で売っているサージカルテープを使用した。しっかり付いて剥がしたとき糊残りが無い。
 完成したフィルターをSigma150-500mmF5-6.3の筒先に差した。シリンダー作成時にレンズ先端筒に撒いたテープを剥がしたので、少し隙間が生れ、フィルター筒の抜き差しがスムーズにできる。

完成した日食フィルターをレンズに付けた状態

 完成した日食フィルターを使って太陽を撮影した。カメラはNikonD300を使用。レンズの焦点距離は500mm(750mm相当)。ピント合わせはC−AFで、オートエリアAFモード。露光はオートブラケティングで9コマ連写。絞りステップ巾は1絞り。−4絞りから+4絞りまで連続自動撮影。ダイナミックレンジを増大させるDライティングを強にして黒つぶれ白飛びをできるだけ少なくする設定。手持ちでレンズのブレ防止装置をON。
 部分日食の撮影なら、手持ちで全てカメラ任せでOKだが、黒い背景に白い太陽では、写真としてはまったく面白みに欠ける。三日月型の白い太陽を撮ってもそれほど面白いとは思えない。写真として面白いのは、皆既日食前後(第2接触と第3接触)でのダイヤモンドリング現象か皆既日食中のコロナ現象の撮影だろう。この場合はフィルターは不要。また皆既日食中、地平線が夕焼け色に染まる現象も興味深い。

ソーラー ソーラー ソーラー ソーラー ソーラー ソーラー ソーラー ソーラー ソーラー

 双眼鏡にも日食フィルターカバーを作った。この状態で太陽を見たら、まだまぶしさを感じた。1/100000に減光されていても、まだまぶしく感じるほど太陽光は強烈だ。連続して見つづけないほうが良さそうだ。双眼鏡用フィルターシリンダーは、写真レンズ用とは違って、簡単に抜けないようにきつめに作った。首から下げた状態で下を向くので落ちやすいし、抜け落ちた状態で太陽を見ると一瞬で眼が焼けてしまう。安全を考えて簡単に抜けないようにしてある。

双眼鏡

 日食グラス(日食めがね)も、作ってしまった。確か、福岡の名物に「ニワカ煎餅」というのがあったと思うが、そっくりな形になった。横14センチ、縦7センチの厚紙を2枚用意する。上から3センチの位置に直径19mmの丸穴を開ける。二つの丸穴の間隔は自分の両眼の間隔に合わせてある。もう一枚の厚紙も同様に丸穴を開けるが、少し大きく24mmにしてある。二枚重ねたとき、工作精度の誤差を吸収するためである。鼻の位置をくりぬいているが、まず、丸穴を空けて上部カーブの丸みを出している。その後、はさみで台形に切っている。
 金属箔を2枚の厚紙で挟む。まず、2枚の厚紙の上部をサージカルテープでヒンジ状に止めておく。下に敷いた厚紙の2個の24mm丸穴の上に金属箔を並べる。下側の厚紙に金属箔を避けるように両面テープを貼る。上側の厚紙に、19mm丸穴を避けて、厚紙をあわせたときに、金属箔の端に両面テープが重なるような位置に両面テープを貼る。ストレスを金属箔に与えないように一点止めにする。
 ここまで準備ができたら、サージカルテープのヒンジをそっと閉じると二枚の厚紙に金属箔が挟まれた日食グラスが完成する。
 この日食グラスには耳掛けが無い。日食グラスも長時間見つづけるのは眼によくないようなので、掛けっぱなしにならないように配慮したため。手に持って観察すると、長時間つかえないだろう。2、3分で休止するのが良いようだ。

日食グラス

  皆既日食の撮影結果

 皆既日食帯への日食ツアーでトカラ列島や上海近郊へ出かけた人々にとっては、梅雨前線が皆既日食帯付近に居座ったため、厚い雲に覆われたり、雨に見舞われたり、偶然雲の切れ間から皆既食を観察できたりと、悲喜こもごもの結果だったようだ。
 私はというと、中国は嘉興市というところに出かけた。皆既帯の中心に位置し、5分52秒の皆既日食が観察できるという触れ込みだったが、前日から厚い雲に覆われ、時折、雨も降る悪天候の中で日食の時を迎えた。観察場所は高速道路沿いの広大な敷地を持つホテルの駐車場。日本の天体望遠鏡ショップが企画したツアーの人たち数十人も同じ駐車場に居た。赤道儀に望遠鏡2連装といった本格的装備の天文マニアが目立つ。それに対して、我々は、中国現地旅行社が日本人向けに募集した上海からの日食日帰りツアー。旅行社が配った日食グラスとコンパクトカメラを手にした人たちが多い。赤道義を携えた人など一人も居ない。まったく対照的なグループが同じ会場で日食を待つ。
 日食開始の8時22分を過ぎても厚い雲が太陽を閉ざしたまま時間が過ぎていく。一瞬部分食が見えたが、強い雨が降ることもあり散々な天候だ。皆既食が9時34分59秒に始まると(第2接触)回りが急に真っ暗になり、高速道路沿いのナトリウムランプや駐車場の灯りが自動点灯して完全に夜の景色になった。9時40分51秒に皆既食が終わって(第3接触)空に明るさがもどり始めたとき、雲の切れ間から98パーセントほど欠けた太陽が姿を見せた。雲を透かして見る弱い太陽光なのでD5フィルターなど付けていたら真っ暗で見えない。フィルター無しで−2絞りから+2絞りの5段階オートブラケティング露光でD300を連写しまくり。それも短時間で見えなくなってしまった。
 皆既日食を見たかった!との思いは残るが、上海観光は充分できたし、日食にそれほど費用は掛けていないからダメージは少なかったと慰めている。

皆既日食で真っ暗 日食を見るツアー参加者 雲間から皆既日食 トップページに戻る